世界で一番幸せな日
世界で一番幸せな日
家に帰り直ぐに湯を沸かし始めたオレは暇になったのでテレビを点けた。
チャンネルを変えても全ての番組が口をそろえて言っていた。
『台風が接近中です。そのままの勢力を保ったまま火の国に上陸する恐れがあります。引き続き警戒してください。』
台風なんて久し振りだ。季節が季節なだけあって、来るのには疑問を感じたりはしないが何故かワクワクする。
本当はこんなふうに浮かれていてはいけないんだろうが、上陸とまで来ると何処まで強いのか少し楽しみだったりする。
台風のおかげで下忍のオレは明日は任務もしなくていい。久し振りに体を休められるのに丁度いい。
しかし少しばかりの不安もある。
それは、このアパートが台風に耐え切れるかどうか。
子供の頃からこの部屋を借りており、どれだけ古くなっているのかは分かっている。
なんせ大雨が降れば雨漏れがするくらいなのだ。
オレがアカデミー時代に分かった事で、一人で雨漏れを防ぐには無理があった。
最近では普通の雨でも少量の水滴が降ちて来るくらいにまでなっていた。
でも今のオレには取って置きの対策が有る。それは影分身だ。
影分身があれば何処に落ちても大丈夫だと思う。
その時やっと湯が沸いた。カップラーメンに注ぎ箸で蓋をする。三分経てば至福の時間が待っている。
待ち時間に服を着替える、明日には台風が上陸してくれるだろう。
でももし避難勧告とか発令されたら、オレは何処へ避難すれば良いのだろう。
しかし今までの台風は避難するほどのものは無かった。
もしそんな事にでもなったら、何を持っていけば良いのだろう。
何となくだが考えるほどのものじゃ無いだろうし、無駄な心配は止そうと結論付けて少し早いがカップラーメンの蓋を開けた。
どこも台風情報でいっぱいなテレビを見ていても面白くないのでプツンと電源を切り至福の一時を味わった。
そして風呂に入りベットにダイブしそのまま夢に落ちていった。
次の朝、まだ気だるい体を起こしテレビを点ける。途端にアナウンサーに釘付けになった。
『今回の台風は非常に勢力が高く危険だと判断されました、直ちに指定された避難場所に必要最低限の荷物を持ち避難してください。』
アナウンサーが自棄に焦っているように見えた、もっと冷静に考えるべきだった。
思っても見たかった結果に戸惑う、何処へ逃げたら良いのやら。
外は朝なのにも関わらす真っ暗で雨もバケツをひっくり返した様な降り方をしている。
避難するのにも納得がいく。だがこれからが問題である。
指定された場所なんて知らないし、どれを持っていったら良いのかすら分からない。
部屋中にギシッと軋む音が響き渡った、家が潰れるんじゃないかと不安になって来た。こんな時に思う。
「誰か居てくれたらなぁ・・・。」
独りじゃ不安で潰れてしまいそうな事がある。だからこそ誰か側に居て欲しい。
今の自分はもう少しで潰れてしまうかもしれない、でも誰に居て欲しいのだろうか分からない。
落ち着ける場所は自分には無いのかもしれない。
でも任務で七班と一緒に居ると楽しさが湧き上がる。自分にも居場所位はあると思っていたが。
家に帰れば独りになる。何時もの事だけれど、もっと一緒に居たかったと思い起こす。
誰か来てくれないかな。
その時ドアを荒っぽノックする音が響いた。驚いた、オレの思考を読まれていたのでは。
急いでドアを開けるとそこにはどしゃ降りの中を走ってきたであろうずぶ濡れで息を切らすサスケが立っていた。
「サスケ、なんで此処に・・・?」
「お前テレビ見なかったのか?避難勧告が出てんだぞ、さっさと準備しろ。」
「で、でもオレ、何処に逃げれば良いのか知らないし・・・。」
「こんな事だろうと思った、良いから早く荷物纏めろ。」
「う、うん。」
よく分からない。どうして来てくれたのか理解に苦しむが兎に角嬉しかった。
自分なりに必要なものを纏めて部屋を出た。
「傘なんて邪魔になるだけだ。措いて行け。」
「うん。」
「準備できたか?」
「まぁ一応、でも何処に避難するってばよ?」
「俺の家。」
「・・・は?」
吃驚した。これでは非難する意味が無いじゃないか。
「家から逃げるんじゃないのかよ。」
「お前の家より断然丈夫だ。黙って来い。」
「・・・なんだよそれ。」
雨で視界が良く見えないが、サスケの後を追って行った。
やっとの思いでサスケの家に着く。直ぐにサスケは扉を開けてオレを招く。
「さっさと入れ、雨が入る。」
「あ、うん。」
家の中は真っ暗で何処に行ったら良いの分からなかったが、直ぐにサスケがタオルを持ってきたので頭を拭きながら先に歩くアイツの
後ろをついて行った。
「何ついて来てんだよ。」
「あ、いやー何処に居れば良いのかなぁと思って。」
「奥の部屋にでも行っとけ。」
「は、はーい・・・。」
言われた通りに奥の部屋に行き適当な場所に腰を下ろした。何故だか落ち着かない。
この部屋にはベットがあり、なかなか広いベランダがついていた。外はまだ暗い。此処は何の部屋なのだろう。
その時サスケが行き成り入ってきた、吃驚してサスケの顔をまじまじと見る。
「なんだよ行き成り。」
「・・・ノックして入れってば。」
「俺の部屋なのにか?」
「え、此処サスケの部屋なの?」
「ああ。」
「ふーん・・・。」
すごくドキドキする、この気持ちはサスケがオレの家に来てくれた時からずっとだ。
とても落ち着かない。でも何故か少し安心できる。もっと安心していたい。
「ところでさ、なんでオレのところになんか来てくれたの?」
「いや、気になって来ただけだ。」
「気になった、ねぇ・・・。」
「それよりお前本当にテレビ見なかったのか?」
「えっと、一応見たけど、何処に行けばいいのか分かんなくってさ。」
「戸惑ってた所に俺が来たって訳か、あのまま家に居たら危なかったかもな。」
「え、そんなに台風強いの?」
「避難勧告が出るくらいな。」
「あーそっか・・・。」
話が途切れたと思った時、サスケが持っていたタオルでオレの髪を拭き始めた。
行き成りの事だったので、吃驚してサスケから遠ざかる。
「な、な、何するんだよイキナリ!」
「髪乾かせよ、このままじゃ風邪ひくぞ。」
「な、そんなのオレに言えばいいだろ!」
「さっき渡したのにまだ拭いてないだろ、何時までも放置すんな。」
「分かったよ・・・。」
顔が赤いんじゃないかって思った。そして後ろに有った何かを吃驚した拍子に落とした。
直ぐに振り向きそれを拾う。落としたのは写真立てだった。そこにはオレとサスケ、サクラちゃんとカカシ先生が写っていた。
「これ・・・。」
サスケは直ぐにオレからそれを横取る。
「な、何見てんだよ・・・。」
「ふーんサスケも写真は大切にするんだー。」
「・・・悪ぃかよ。」
「べっつにー。」
嬉しかった。オレも同じように写真立てに入れていたし、それにサスケがこんなふうに大切にしてるなんて思ってなかったから。
なんかオレが大切にされてるみたいで恥ずかしい感じもした。
「お前、何か言いたそうだな。」
「サスケも同じようなことしてくれたんだーって思うとさ、何かうれしいってばよ。」
「・・・。」
「オレにとってもこれはスッゲェ大切だし、これに写ってる人皆大切過ぎるんだってばよ。」
オレがそう言うとサスケはベットに写真立てを置きイキナリ距離を縮めてきた。
少し戸惑う。そして目の前にサスケが立つと行き成りオレの肩にサスケの顔を埋めて来た。
「さ、サスケ行き成りなにするんだよ・・・。」
「俺はお前が大切だ。」
「・・・へ?」
何事も行き成りなので余計に頭が混乱する。何を言い出すんだ。
「何言ってんだよサスケ・・・。」
「聞こえなかったのかよ、俺にはお前が一番大切だ。」
「・・・。」
「何時も一緒に任務して、自分の居場所が出来て、やっと心を許せるヤツが出来て、もっと側に居たいと思うんだ。」
「・・・サスケ。」
「独りの苦しみから救ってくれたお前が、何よりも大切なんだ。」
「・・・。」
「だから心配になってナルトの家に雨の中走って、家に連れてきた。」
「そうだったのか・・・。」
「もしかすると今、お前が誰かを待ってるんじゃないかって勝手に思ったんだよ。」
「・・・そう、なんだ。」
「独りの苦しみは、分かってるつもりだったから、こんな時に誰か側に居てやらないといけないんじゃないかって。」
「・・・うん、思った。誰かが側に居てくれたらって思ってた。」
「そうか、行って良かったんだな・・・。」
「うん。嬉しかったよ、サスケ。ありがとな。」
「ああ、このままずっと側に居て欲しいな。」
オレは凄く嬉しくてサスケを抱きしめた。もう、離れたりなんかしないから。
自分の痛みを分かってくれる人がこんなにも近くに居てくれる事は、とても幸せな事だと思う。
オレを大切にしてくれるんだから、オレもお前の事大切にしなきゃな。
サスケの温もりが伝わってくるとすごく安心できる事が分かった。近くに居てくれると分かる。
大切なものかひとつ増えた日は、世界で一番幸せな日。
終
*後書*
丁度熊本に台風が接近してます記念。(なんじゃそら)
ではなく1000打記念です。なんかフリーな物を書いてみたかったという
はてしなく意味不明で突拍子もない企画ですねあっはっは。
最後までお付き合い頂きありがとうございました。
配布は終了しました。
