シャングリラ
朝、一日で一番嫌いな時間。
起きれないし、忙しいし、そしてまた、同じような一日が始まるから。
つまらない。
きっとまた、明日もそうなんだろう。
もっともっと、楽しみがふえるといいのに。
シャングリラ
ベルの音が部屋中に響く。うるさくて仕方なく起きる。
針は六時を指していて、集合まであと一時間半ある。
布団から出て顔を洗い、毎日の日課であるトレーニングをした。
三十分が過ぎたころ、ようやく朝食を作り始める。
毎日毎日が同じ流れで、似たように過ぎて行く時間。
今日もDランク任務。
簡単な料理が出来上がり、箸を掴んだとき、呼び鈴が鳴った。
こんな時間に何のようだ。
少し不機嫌な気分になりながらも、玄関に向かう。
すりガラスから見受けられるのは、見覚えの有る金色、オレンジの服。
「よ、サスケ。」
「・・・こんな時間に何のようだ。」
「朝から機嫌悪いなーお前。流石低血圧。」
「朝っぱらからひとんちの呼び鈴鳴らしといてよくそんな事言えるな、このウスラトンカチが。」
「一年中眉間にしわ寄せてるやろーが今更不機嫌だなんて言ったってしゃあねえけど。」
「・・・この暇人が。何のようだ?こっちは暇じゃねえんだからな。」
「んーお前の言うとおり暇だから修行しよっかなーって。」
「それで俺のとこに来たんだな、全く。やっと飯食おうとしてた時に・・・。」
「あ!マジ?オレってば実は飯食ってないんだよな。」
「はぁ?てめぇ何処まで我侭言ってんだ。」
「いいじゃんか、一人で食うより二人で食った方が美味いって。ということでお邪魔ー。」
「この野郎、我侭貫きやがって・・・。」
不覚にも家へ入る事を許してしまった。こうなればあいつは絶対に帰らない。
さっさと一人前作って早めに出てもらわなくては。
朝から騒がしい声が家に響き渡る。大きさしかとりえが無いのに今日は少し違ったふうに感じる我が家。
「ねーねー、何作ってくれるってば?」
「何作っても文句言うなよ。」
「えーオレ野菜とかNGなんだけど。」
「忍者が好き嫌いなんてしてんじゃねぇ阿呆。」
卵をボールへ割りいれ手際よく調味料を加え混ぜ合わせる。後ろで座っているナルトの視線が痛い。
「・・・何時までも見てんじゃねぇ。」
「だってサスケ手際が良いから。なんかつまんねー。」
「何ひとんちに来て駄々こねてんだよ。」
「だってー、なんでも出来すぎてつまんねーよお前。」
「ほう、お前やっと自分のしてきた事理解しやがったな。」
「ふんだ。別に自分が出来てないなんて思ってねぇってばよサスケクン。」
溶いた卵を熱したフライパンに入れる。油をひくのを忘れていたことに気付いた。
始めは少し焦げ付いたが、一回目をまき終わった後、直ぐに油をひきすべりを良くしたので後は問題ないだろう。
これを食べ終えたらきっと直ぐに修行だとかぬかしてくるんだろう。我侭なのは今に分かった事では無いが。
綺麗な長方形の玉子焼きが出来上がり、皿に盛り、包丁で食べやすく切る。
なんで自分がこんな我侭のためにわざわざ切っているのだろうが少し疑問に感じながらもテーブルに持っていく。
「ほら、出来たぞ。」
「うはー悔しいけどうまそー。」
「フン、お前とは格が違うからな。」
「ムカツクってば、マヨネーズは?」
「・・・は?醤油じゃねぇのかよ。」
「醤油は目玉焼きだろ?」
「いや、そんなの知らねぇよ。」
「普通玉子焼きはマヨで食べるんじゃねぇの?」
「そんなの聞いたことねぇよ。大体そんなもんつけて食うなんて邪道だ。」
「えー!食べた事ないのかよ!?うまいのにー!」
「そこまで驚く事かよ、つーか声がでかいんだよ。」
「それはもともとだってば。」
「はぁ、言っとくがな、これは俺が作ったんだ。俺も食べるんだぞ、そんな物付けられると食う気失せる。」
「マヨネーズ馬鹿にすんなってばよ!マヨネーズはなんにでも合うように出来てんの!」
「そういうのは別の所でするんだな。ここは俺の家だ。郷に入っては郷に従えよ。」
「何語いってんだバカサスケ。インテリぶってんじゃねぇ!とにかくマヨネーズ!」
「だからそんなもんうちにはねぇんだよ!」
「えー!!無いのかよー。」
「フン、このウスラトンカチが。黙って醤油かけてろ。」
「ふーんだ、マヨネーズの良さを知らないなんて信じらんねぇ。ムカツクからいっぱい醤油かけてやる。」
「な、馬鹿野郎!そんなにかけるやつがあるか!!」
「うっせぇ!お前用にかけてないのあるだろ!」
「一切れじゃねぇか。てめぇ俺に飯食わせないつもりか。」
「食べられない事ないって、お前の大好きな醤油だろ。」
「誰が好きなんて言ったんだこのウスラトンカチ!」
朝っぱらからこんなに声を張り上げた事なんて今まで一度も無かった。
不思議な感覚がする。一人の冷たい感覚ではなく、体が温かくなる感覚。
どうしてこんなにもコイツは、俺に絡んでくんるだ。でも今は正直言うと、悪くない。
自分がそういった感覚にもうはまっているのかもしれない。
いけないとわかっているのに。
ナルトのおかげで二人とも待ち合わせに遅れてしまった。
「あ、遅いじゃない!二人とも一緒なんて珍しい。」
「んー遅刻はいけないぞー。待ってる身にもなってみなさい。」
「こんな時に限ってカカシの野郎早いじゃねぇか。」
「そっくりそのまま先生に返すってばよ!」
「あーはいはい、それじゃあ今日も楽しいDランク任務を始めましょー。」
「えー今日もDかよー。たまにはAとかSとかカッコイイのしたいってばよー。」
「Dもそこそこかっこいいでしょ、ほーらもたもたしてるとオレを見失っちゃうぞー。」
「あー!先生待ってよー。」
カカシはそう言って俺たちの少し前を歩いていった。
Dランク任務を早く片付けて修行したい。
こんな毎日じゃ、アイツに追いつかないだろ。
焦燥感が俺を責めたてる。俺は何時になったらアイツに追いつく?
答は自分で出すことぐらい分かっている。しかし何時まで経ってもアイツに追いついた気がしない。
するとナルトが俺の方に駆け寄って来た。
「サスケー、もたもたしてっとカカシ先生どっかいっちまうだろ!早く来いって。」
その言葉に我に返る。置いて行かれたと思ったのに。
「あぁ。」
軽く返事を返して歩き始めた。
ナルトも俺の横を歩く。今日は朝からコイツにつかれてるな。まぁきっと任務が終れば帰るだろうが。
夕方になってやっとDランク任務の山が終わり、解散の令が下ったとき、雨が降ってきた。
カカシは既に居なくなっており、サクラも俺たちに別れを告げて走って家路に着いた。
俺も帰ろう。そして小走りでこの場を去った。残っていたナルトに挨拶も言わずに。
雨脚が徐徐に強くなっていった。これは多分夕立とかいうレベルじゃない。
結局最後は走って家に着いた。服はずぶ濡れで気持ち悪い。
早速着ていた服を脱ぎ、洗濯機に入れてそのまま湯船にお湯を入れた。
今日も疲れた。しかもやりたかった修行もこの雨では出来ない。今日はあまりいい日ではないのかもしれない。
体をタオルで拭いていると本日二回目の呼び鈴の音が聞こえた。今日は珍しい。
疲れていて出る気にもなれず、居留守を通そうと思ったが、それも空しく、相手はボタンを連打してくる。
うるさくて仕方ないので、嫌々ながら玄関に向かう。
すりガラスに見えるのは、今朝と同じ光景。
「てめぇ、普通は二回までだろうが。」
「あー!やっぱり居るんじゃんか!居留守してんじゃねぇってばよ!」
「うるせぇ、こっちは疲れてんだよ。何の用だ。」
「オレを止めてってばよ、お願い。」
「はぁ?また俺の飯食い漁りに来たのかよ。」
「オレんちボロヤだから雨漏り酷くてヤバイの!もうあんなところじゃ寝れないってば。」
「寝なきゃいいじゃねぇか。」
「馬鹿いうな!こっちだってクタクタなの!」
「カカシのところは?」
「家知らない。」
「イルカは?」
「今アカデミーの授業で生徒と森で野宿してんの。」
「サクラは?」
「女の子だろ!お前デリカシーないな。」
「お前が言うな、で、俺の所に来たのか。」
「そう!という事でお邪魔します。」
「おい!まだ良いなんて一言も・・・。」
「じゃあお前はまたこんな可愛そうなオレをつっぱねて一人美味しい夕食でも頂くのかよ?いいだろ一晩くらい。それに今朝も来たし。」
「・・・はぁ、どうせもう上がっちまったんだし、帰らないんだろ?俺がどんなことしても。」
「へー分かってんじゃんサスケ。」
「言っとくがな、俺の家も使ってない部屋は雨漏りしてるぞ。」
「じゃあ使ってる部屋で寝るから。」
「・・・それじゃ俺が寝れないだろ・・・。」
結局一日中ナルトと共に過ごす事になってしまった。
確か布団はその使っていない部屋に置いてあったな。
そうなれば自動的に俺のベットで寝る派目になる。
他の場所でゆっくり落ち着いて寝れる場所なんてないし、それに俺がコイツのために他の場所で寝るなんてことは癪だ。
今日は疲れなんて取れないと覚悟しておこう。
そう考えるだけで疲れがどっと押し寄せる。
「なーサスケ。」
「なんだ?」
「今日の夕飯は?」
「マーボー春雨。」
「えー鶏の唐揚げが良いってば。」
「残念だったな、うちには鶏肉は無い。」
「じゃあなんでマーボー春雨なんだよー。」
「うちにあるからに決まってんだろ。」
「珍しくラーメン以外の食べたかったのに。」
「確かに珍しいな。」
「な!だろ!だから作ってってば。」
「却下。」
「ちぇー、つまんねぇ。」
「嫌いか?マーボー春雨。」
「んー好きでも嫌いでもない。」
「可愛げねぇなお前。」
「な、男に可愛げなんて求めてんじゃねえってばよ!」
「フン、それもそうだ。」
こんなにも、自分がこの空気に落ち着きを感じるなんて思わなかった。
一人じゃこんなに口を動かさないし。
朝と同じように、この家が少しだけ温かく思える気がする。
一人じゃ大きすぎて、冷たくて、あまり好きじゃなかったこの家が、少しだけ違って見える。
どうしてこんなにも、こいつは周りの物を変えてしまうんだろう。
自分には無い能力がコイツには備わっている。もうこれは認めざるを得ない。
今までずっと自分より下だと思っていたのに、こいつと俺には徹底的に違いすぎていると思っていたのに。
今じゃもう俺と互角なんじゃないかと感じる時がある。考えてみれば俺と同じような生き方もしている。
何時追い越されるのかと思うだけで不安と焦りが募るだけなのに、コイツは一生懸命に俺を超そうとする。
でも、それでも拭いきれない過去があるから、こんなにも共感できる。
俺はずっと前からお前を認めていた。
適当に夕飯を作り、風呂にいれ、今日は早めに寝る事にした。
俺の部屋に付くと早速ナルトはベットに倒れこんだ。
「うはー、気持ちーってばよー。そのまま寝そう、」
「俺のベットだぞ、俺の陣地がなくなるだろ。」
「はいはい、今日は疲れたからな、早く寝たいんだろ?サスケ。」
「分かってるなら早くどけナルト。」
そして電気を消し、部屋が暗くなる。
外の雨の音が酷く大きく聞こえる。遠くで雷も鳴ってるようだ。
「久し振りに雷鳴るな。」
「・・・。」
「もう寝た?」
「寝かせろ。」
「はーい・・・。」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「なぁ。」
「なんだよもう。」
「明日の朝、玉子焼きが良い。」
「マヨネーズ無いからな。」
「分かってるって。てかさ、明日は油ひくの忘れんなよな。」
「・・・!なんで知ってんだ。」
「見てたから。オレをなめんなよ。」
「・・・ウスラトンカチ。」
「返す言葉もないんだろ、へっへー。」
ナルトに背を向けるように横になる。
こいつは凄いな。俺をずっと見てる。
きっとそれは俺だけじゃないんだろうが。
そんなふうに皆を見て、皆の心を動かして、皆のためを想って。
こいつにとって『繋がり』はとても重要で、無くてはならないものなんだろう。
その中で俺が入っているとしたら、どれくらい重要な存在なんだろう。
そいつ等と同じ位だったら、俺は自惚れが過ぎている。
その中で一番になりたいと、そう思う自分がとても嫌いだ。
いつか分かる時が来るだろうけど、それを不安に感じている自分がいる。
あの時からそうだった、白との戦いで、ナルトは俺ためにあいつと戦った。
少なくとも俺は、アイツと何処かで繋がりがあると思っていた。
でも時が経つにつれ、ナルトにも繋がりが増えていった。どれも大切で、無くてはならない繋がりが。
そして何時の日か、俺との繋がりが他の誰かの繋がりよりも脆くなる事を恐れている自分に気付いた。
自分が一番だと思っていた時を憎む。
お前はどうなんだ?
俺の存在は、お前にとってどれくらい影響する?
俺の理想は高く、誰よりも一番になりたいと思っている。
でもそれじゃお前は不公平だと思うだろ?
だから、俺の中ではお前が一番だ。
「なぁ、サスケ。」
「なんだ?」
「明日、何時に起きるの?」
「そうだな、いつも集合時間の一時間半前には起きるけどな。」
「明日の集合時間って何時?」
「八時。」
「じゃあ、六時半か。オレも起きよう。」
「何するつもりだ?その前に起きれるのかよ。」
「起きれるってばよ!」
「そうか、そうだといいがな。」
「でも起こされるのも悪くないかも。」
「おい、俺にまだ手間かけさせるつもりかよ。」
「んーそういうんじゃなくて、朝起きて一番に見る光景がさ、サスケっていうのが悪くないかなって。」
「・・・、何言ってんだよ。」
「・・・オレ、何言ってんだろ・・・。」
「・・・なんだよそれ・・・。」
「お、お休み、サスケ。」
そう言ってナルトも体勢を仰向けから俺に背を向ける形にして眠りについた。
朝起きて、一番に見える光景が、ナルトだったら。
少しは気分良く、起きれるかもしれない。
朝が少し、楽しみだ。
終
*後書*
一周年ありがとう。そんな気持ちが伝わりませんねとっても痛い!
甘く甘くと思って書いてみました。頑張ったって自分。でも最後らへんはめちゃくちゃですな。
まぁ自分らしいよ多分。(開き直り)
一応私は玉子焼きにはマヨネーズで目玉焼きには塩コショウ派です。どっぷりかけます。(聞いてない)
こんな感じで二年目も頑張らさせていただきます。
最後までお付き合い頂きありがとうございました。
お持ち帰りOKだったりします。