失くし物
失くし物
俺はつい先日、存在理由が無くなった。
野望である兄を殺したのだ。
幼い頃に肉親全てを奪い取った兄を殺すのが自分の宿命だった。
孤独の道に一人で歩き続けた俺は、力を求めた。
闇のように黒く冷たい場所から手を差し伸べてくれた最愛の人とも、繋がっていたものを断ち切り、本当の闇へ進んでいった。
自分に幸せを教えてくれた人に、仇でそれを返した俺は、死ぬ時は野望を果した時だと思っていた。
だけど、俺は今、生きている。
この木の葉に帰ってきた。
願っても無かったことに、今となって少々驚きがある。
これも、最愛の人のせい。自分は生きていく目的を失くしたのに。
此処は、昔俺が父親から直々に教わった忍術の練習場。
湖は昔も今も変わっていない。あの頃より少し小さく見えるのはきっと俺が大きくなったから。
本当に懐かしい。昔からこの場所は俺の特別な場所だった。
火遁の術を会得し、父さんに認めてもらった場所。そして俺が孤独になった時、此処に来ては自分の弱さを責め続けた。
あの頃と同じように、水面に映る自分を見つめた。
俺は木の葉に帰ってきた後、色々と大変だった。
五代目の命により、大蛇丸の件やら何やらで長い間事情聴取を受けた。
そしてナルトは俺の戦いの巻き添えになり、怪我を負った。
こんなにも自分との繋がりを守ろうとした結果が、俺を深く締め付ける。
この状況を受けた五代目は、俺にもう一つ命令を次げた。
「私が良しと言うまで、ナルトとの接触を一切禁止する。」
俺は納得した。里を捨てたのにこうした形で帰ってきて、まだ間もない自分を疑うのは当たり前のこと。
反論などしなかった。
このまま永遠に火影の首が縦に振ることが無かったら、俺はどうなるだろう。変わるだろうか。
水面がたくさんの輪を作ったとき、久し振りな声がした。
「よう、抜け忍さんよぉ。元気だったか?」
「シカマルか。」
そこには緑のベストを着たシカマルが煙草片手に立っていた。
「戻ってきたと聞いてな、まぁ見つけたのは偶々だが。」
「お前、煙草吸うようになったのか?」
「あ?あぁ、まぁお前が居ない間、いろいろあったんだよ。」
「そうか・・・。」
「どうだ?木の葉は。お前にはどう見える。」
「何も変わっちゃいないな。五代目の顔岩が増えたくらいか。」
「そうだな。風景は変わってないな。」
「・・・。」
「じゃあ、人はどうだ?」
「人・・・、まだ会ってないヤツばかりだからな。」
「そうか、まぁいずれ会うだろうな。みんな心配してたぜ。」
「・・・あぁ。」
「いのやチョウジも、キバやリー、とにかくみんな心の片隅では心配してたと思うぜ?」
「・・・。」
「何か言えよな、サスケ。」
「・・・悪かったな。」
「ええとっても。」
「・・・シカマルは、変わってないな。」
「そうか?」
「あぁ、煙草癖が付いたぐらいか。アスマの影響か?」
「あいつは・・・、死んだよ。」
「・・・!なんだと?!」
「言ったろ。お前がいない間、いろいろあったって。それに今更驚かれてもな。」
「そうか・・・。」
「でも、まぁ子は残して逝ったからな、俺がその子を忍に育てるんだ。」
「子供だと?相手は?」
「んなもん、聞かなくても分かるだろ?それもと、修行に集中しすぎて木の葉の上忍を忘れたか?」
「・・・、そうか。そうだったな・・・。」
「全く、とんだ自己中ヤローだ。めんどくせー。」
シカマルはそういって寝転んだ。
この風景が変わらないのは、俺がいない間、沢山の苦労があったからだと此処で初めて理解した。
みんな、変わったのだろうか。
「そういやお前、ナルトとは一緒じゃないんだな。」
「五代目から、接触するなと言われてな。」
「は?どういう意味だよ。」
「俺の戦いの巻き添えになってな、火影はまだ少しばかり俺を疑ってる。」
「巻き添え食らったのは聞いたが、まさか此処までのことだとは。」
「俺は、これからどうすればいいんだ。」
「お、エリートなサスケクンも悩みがおありで?」
「ふざけてんじゃねぇよ、ただ、俺にはもう目的が無くなった。」
「立派な悩み事じゃねーか。言っとくけどオレ、そういうめんどくさそうな事には首つっこまねぇぞ。」
「分かってる。ただ言っただけだ。」
「ただ言っただけには聞こえねぇがな。」
「・・・。」
「・・・ナルトだな、一番心配してたの。」
「・・・。」
「オレから見ると火影になる目的と同じくらい大切なことだったようだぜ?お前の奪還任務。」
「・・・あぁ。」
「あの時はすごかったな、チョウジやネジも瀕死状態にまでなってよ。」
「・・・すまなかったな。」
「全くその通りだぜ。めんどくさくて堪らなかった。」
「・・・。」
「あいつは凄いよな、みんなを信じてお前と戦って、逃しても諦めずに大怪我負ってもあいつは曲げなかった。」
「・・・。」
「そうだな、そこら辺は感心するな。昔は俺と同じ悪戯坊主だったのに、もう立派な忍だもんな。その内、マジで火影になるかも。」
「俺は、あいつの邪魔をした。」
「・・・。」
「火影になる夢を、俺があいつと深く繋がってたせいで気を散らせてた。」
「あぁ、そうかもな。でもあいつにとってサスケは、それだけ強い存在だったってことだ。」
「俺はずっと独りだと思ってたのに。」
「まぁ、火影様の許可が出たら、会いに言ってみろよ。侘びくらい入れとけ。」
「・・・あぁ。」
「まぁ、俺が思うにお前は早くに会いに行くだろうがな、心配なんだろ?」
「・・・なんで、分かった?」
「顔にそう書いてある。お前が生きてるのはナルトのおかげだからな。」
「本当はもう、死んでるはずだった。」
「よかったな、そんな縁起の悪い予想外れて。」
「・・・。」
「目的なんてな、生きてりゃいくらでも出てくる。生きてるうちに無くなる事はまずない。もしお前が今、目的が無いと思うなら、
もう一度周りをよーく見てみろ。」
「周りを、見るのか・・・。」
「あぁ、まぁお前なら直ぐに見つかるだろ。」
「そうだといいがな。」
「それはお前次第だ。オレの中には最有力候補が居るけど。」
「悪いなシカマル、今日は。」
「気にすんな。オレは自分の考えを言ったまでだ。じゃあそろそろ行くわ。」
「あぁ、じゃぁな。」
シカマルはそう言って煙草を持っていた携帯灰皿にいれると立ち上がり、ゆっくりと歩き始めた。
あいつの背中は、気が付けば広くなった気がした。
本当は、あいつも少しばかり変わったんだろう。
でも、俺は変わっちゃいない。一人取り残されていく感覚がする。
時代は流れていく。人もそれに逆らう事なく大きくなって大人になる。周りはすべて未来の自分を想像する。
だけど俺はそう出来ない。子供の頃から自分の未来は残酷で、弱い自分を殺そうと全てを断ち切ったのに、野望を達成した時、残った
ものは傷だけ。あとは何も無い。結局変わらなかった。
そんな俺を生かそうと懸命に戦ったナルトは、とても眩しい存在だった。
俺を此処まで必要としてくれたあいつが、本当はとても愛しかったことを思い出す。
なら俺には何が出来る?こんなにも大切な人を殺そうとした俺には、何が残っているだろう。
答えは、きっと、俺の存在理由になる。
続
*後書*
続きます。本当はこんなつもりじゃなかったのによ・・・(泣)
シカマルかっこいいです。煙草とかすげぇよ。
これはサスナルです。でもそんなふうにならなかったな。
次はサスナルにして見せますから!