Hold me tight

Hold me tight




 「火影就任おめでとう。」
 そんな言葉を投げかけて来る。
 最近はずっとそうだ。誰かに合うたびに口にされる。
 正直なところ、もうそんな言葉聞きたくない。
 俺は本当は望んじゃいなかった。
 俺がなるべきじゃなかったんだ。
 本当は、お前がこの椅子に座るべきなんだ。
 俺は、最愛の人の夢を奪った。


 「失礼します、火影様。」

 入ってきたのはサクラだった。一緒に大量の書類がある。
 
 「これも追加の分です。後それにこれが終ったら砂の使者様との合同会議です。」

 山の様に積み上げられた書類の隙間から顔を覗かせながら用件を言う。
 書類や会議などに振り回される毎日。こんなにもきつい仕事なんて思っても見なかった。
 それもそのはず、俺が木ノ葉の里長になるなんて考えた事も無かったから。

 「・・・。」

 「どうされました?火影様。」

 「その言い方止めろ、堅苦しすぎる。」

 「でも貴方様はこの里の長なので無礼な言葉などかけられません。」

 「その長が止めろって言ってんだ。」

 「はぁ、全く。何時まで機嫌悪いのよ、サスケくん。」

 「・・・なんでやってもやっても沸いて来るんだよ。」

 「そんなの私に聞かないで、私だって重いのよコレ。まだまだ就任したてなんだからもう時期慣れるでしょ。」

 「こんな事ばかりやってたら体がなまる。」

 「だから何?外に出してくれって言ってるの?」

 最近ナルトの顔を見てない。俺が火影になった途端任務で里を抜けてばかりいる。
 きっと自分の夢であった火影の座を恋人に奪われて、こんな俺を見たくないのだろう。
 あいつはそうなのかもしれないが、俺には耐えられない。

 「ナルトに会いたいの?」

 「・・・。」

 「火影ともあろうものがそんなんじゃ、世も末ね。」

 「俺がなるべきじゃなかったんだ。」

 「今頃言ってもね、どうしようもないわ。」

 「・・・だろうな。」

 「分かってるならさっさとこれ終らせたら?まだまだ山積みなのよ。」

 「・・・ナルトにやった任務内容はなんだ?」

 「はいはい、えーと音隠れの里との国境付近の警備へ二週間滞在する、よ。」

 「音、か・・・。」

 「心配なら早く仕事終らせなさい。あーそれと今日でナルトに任せた任務、完了の予定よ。」

 そう言ってサクラは部屋を後にした。
 仕事中は何時もナルトのことばかり考えてしまう。
 一秒でも早くナルトの顔が見たい、この腕で抱きしめたい。
 でもここに座る俺を見て、あいつは涙を流すかもしれない。
 俺のせいで泣いて欲しくなんか無い。
 俺が火影になる羽目になったのは上からの命令。
 反対し続けたがそれも空しく、結局逆らう事が出来なかった。
 ナルトにさせてやりたかったのに、俺はそれを奪った。
 きっとお前は目を赤くして俺に無理矢理笑いかける。
 そんな事して欲しくない。
 ひとつ溜息をつき、机の上に山積まれている書類に判子を打つ。
 繰り返し繰り返し同じ作業をする度に自分を責める。
 その時、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
 
 「入れ。」

 「あ、サスケくん。たった今ナルトが任務完了の報告をして来たわ。」

 「!」

 「十分だけなら抜け出してもいいわよ。」

 「分かった、直ぐ戻る。」

 「当たり前ですよ、火影様。」

 やっと帰ってきやがったな。俺に顔くらい見せてくれよ。
 部屋を飛び出し直ぐに瞬身の術で居なくなる。
 
 「全く、昔も今も変わらないこと。」

 サクラはそう言い残し再び自分の仕事場に帰る。
 
 一分もかからない内にナルトの家に着いた。
 早く恋人の顔が見たかった。
 だが俺のほうが早く来すぎたのか、ノックを繰り返しても返事が無い。
 直ぐに階段を下ろうとした時、やっと会えた。
 やっと顔が見れた。

 「あ、サスケ・・・。」

 「てめぇ、どうして俺の所に来なかったんだ。」

 「あ、えーと、疲れてたからさ。」

 「どれだけ心配したと思ってるんだ!」

 「・・・。」

 「それとも、お前の夢を奪った俺を見たくなかったか。」

 「・・・別にそんなんじゃないってば。」

 「じゃあどうしてさっきから俺を見ようとしないんだ!」

 「それは・・・。」

 ほらな、やっぱりそうだ。お前は俺が憎いんだ。
 こんなふうにさせたくなかったのに、どうしてこんなふうになってしまったんだ。
 俺はこんなにも、お前が愛おしいのに、お前を傷つけたのは紛れも無く俺なんだ。

 「ずっとずっとお前の事考えていたんだ。」

 「サスケ・・・。」

 俺はそう言って階段を下りる。ナルトに近づく。

 「だから、顔くらい見せに来いよ。」

 「・・・そうだな、ごめん。」

 「凄く会いたかった。」

 「・・・。」

 「でも、会うのが怖かったんだ。お前に嫌われるかもしれないなんて思うと、もう怖くて・・・。」

 そう言って強く抱きしめる。もう離さない、何処にも行かせたくない。
 
 「なあ、お前は俺のこと憎いか?」

 「え・・・。」

 「憎いから俺に会いに来なかったのか?」

 「違うってばよ、そんなんじゃない。」

 「じゃあどうして・・・。」

 不安な気持ちになる。俺にはナルトしかいないのに、お前以外考えられないのに。

 「こんな事、言いたくなかったんだけどな。」

 「何がだ?」

 強く抱きしめていた腕を緩めようとした。けれどナルトが俺を強く抱きしめた。

 「オレさ、上忍になっても子供のままだなって思うってば。」

 「どうしてだ。」

 「お前が火影になるって聞いて、悔しかったのは事実だけど、その前にお前が、もっと里中の皆に好かれるのが嫌だったんだ。」
 
 「・・・。」

 「だってさ、オレたち恋人同士じゃん。他の誰かにでも持っていかれたらオレ、死にそうになる。」

 「そうか・・・。」

 「サスケのこと、独り占めにしたかった。」

 「それなら、俺の側にいればいいだろ。」
 
 「そうだけどさ、やっぱ自分に自信持てなくて、逃げちゃった。」

 ナルトはそう言うと俺を抱きしめていた腕をもっと強くする。

 「でも、安心した。お前は俺のこと好きでいてくれた。少しでも疑ったりして、ごめんな。」

 「いいや、俺も安心した。よかった。」

 俺も抱きしめる力を強くする。お前の匂いがする、凄く心が落ち着くんだ。
 側にいるんだって、心から感じる事が出来るから。

 「お前がオレの夢を叶えてくれて嬉しいってばよ。」

 「ナルト・・・。」

 「オレの分までしっかり頑張ってくれよな!」

 「ああ、そうだな。」

 そして、腕も力を少し力緩め、優しい口付けをした。
 ナルトは俺に甘えるように受け入れる。
 そしてそっと唇を離し、また強く抱きしめる。
 
 「なあナルト、お前俺の補佐官しろよ。」

 「はぁ、どうして?」

 「俺だけじゃ終らねえんだよ、仕事。」

 「へー、ゆーしゅーな火影様でも敵わないんだ。」

 「それに、もう一つ。」

 「何?」
 
 「何時でもお前を抱きしめられる、これは火影命令だぜ。」

 「職権乱用に引っかかりそうだってば。」

 「嫌かよ、お前。」

 「でも、悪くねぇかも。」

 「フン、ウスラトンカチ。」

 「あ、そんなところはサスケだな。」

 なあ、だからもっと強く抱きしめて、俺から離れたりしないで。
 この腕はお前を束縛するための鎖になる。
 俺は独占欲の塊だから、お前が側に居てくれないと不安になる。
 強く、強く、抱きしめて。
 







 終






 *後書*
 サスケもなかなか子供だよ。
 これはアジカンの曲に合わせて書いてみました。
 やってみたかったんだよアジカンで文を書くこと。でもだいぶ歌詞とズレてる思う。
 またやりてぇな、なんか楽しかった。
 最後までお付き合い頂きありがとうございました。