秋桜の夜

秋桜の夜




 肌寒い季節、秋。秋には色んな風物詩がある。しかし忍にとっては季節感なんて関係ない。
 今日も何時も通りのDランク任務を立て続けにこなす。骨無しのくせに数はある。
 今やっている任務は植物園の手入れの手伝いだ。いろんな種類の植物が並んでおる。
 それに興味をそそられている彼、うずまきナルトは花ばかり目に取られて全く手を動かしていない。
 とても楽しそうだ、でも管理人は目を光らせていた。

 「おいそこの金髪頭、手を動かせ!さっさと片付けないと金払わんぞ!」

 「あ、ごめんなさい・・・。」

 ナルトは少し肩を落として雑草を取り除く。でも直ぐに目は植物へ移る。
 此処は季節を感じさせてくれる花が沢山ある、きっとナルトも内心は嬉しがっているだろう。
 任務をしながら季節を感じられるなんてそう出来ることじゃない。
 俺はそんな嬉しそうに植物を眺めるナルトが酷く愛しく見えた。
 忙しい任務が続き、きっと心を休める機会が無かった最近。
 花を眺めるナルトはとても幸せそうだ。

 「サースケ、何時までナルトの事見てるの?手が全然動いてないぞー。」

 「・・・アンタは体すら動かしてないがな。」

 「いやー俺はほら、指揮監督しなきゃいけないから。上忍だし。」

 「都合いい様に使いやがって、変態上忍が。」

 「んー変態で結構、口じゃなくて手を動かすんだ、サスケ君。」

 仕方なく雑草を取り除く。こんなにナルトを見てしまう理由は分かっている。とっくに認めていた。
 何時も何時も楽しそうで、誰にでも笑顔で振舞って、元気に飛び回っているように動くあいつ。
 素直じゃない自分とは全くの正反対。初めは目障りだったけど、少しずつ変わっていき、最終的にこうなった。
 好きになったのだ。
 何もかも俺にはない要素をお前は持っている、特に素直に物事を見たり言ったりする所は凄く羨ましい。
 自分も思った事は口にするタイプらしいが、あそこまでは無い。
 自分も素直になりたくて、否定していた感情をやっと認めた。
 もっと側に居てあいつのこと知りたい。
 あいつをもっと幸せにしてやりたい。
 俺は十分お前に幸せを貰った気がするから、今度は俺の番だ。

 任務も終わり家路に着こうとしたとき、サクラから行き成り話しかけられた。早く帰りたかったのに。

 「サスケ君、ちょっといいかしら。」

 「・・・何だ?」

 「あのね、今月の十日、何の日か知ってる?」

 「・・・いいや。」

 「あーやっぱり知らなかったんだ、声かけて良かった。」

 「何だよ、さっさと話せ。」

 「ハイハイ、実はね、その日はナルトの誕生日なの。」

 「・・・ナルトの、誕生日・・・。」

 「ええそうよ、それでね、折角だしカカシ先生と私とサスケ君で何かプレゼントをあげようかと思ったの。」

 全く知らなかった。好きなヤツの誕生日も知らないなんて、そんな自分に呆れる。
 でもこれは自分の気持ちを素直に言えるチャンスなのでは・・・。

 「それぞれでナルトにプレゼント渡すってことで!良いわよね?」

 「・・・。」

 「何か言ってくれないと困るんだけど、一応言っとくけど今日は八日だから。じゃあまた明日!」

 そう言ってサクラは帰っていった。俺はその場でひとり考えていた。何をあげたら良いのだろう。
 今までは俺は貰う側でしかなかった。押し付けられるプレゼントは山のようにある。
 貰った経験はあっても、あげた経験は0。
 しかも明後日なんてこれはまた急な話だ。
 どうすればいいのか分からず、結局何も思い浮かばぬままその日は寝てしまった。

 次の日の任務は何時も通りのDランク。全く変わらない内容。でも頭の中は明日のことで一杯だった。
 そしてその日の帰り、サクラに一押しされ余計に焦ってしまった。全く思いつかない。
 その帰り道、何時もと違う道を通って帰っていた。何かしらいいヒントでもあればと思い。
 その時一瞬だけピンクの色が目に入った気がした。直ぐに後戻りし確かめる。それがヒントになった。
 というか、答えになった。喜んでくれるといいのだが。

 とうとう来てしまった十月十日、俺は任務後の事で頭が一杯だった。喜んでくれると良いのだが、もし喜んでくれなかったらと考えると、
 とても不安になる。今更だけど、こんなモノで良かったのだろうかとかなり心配になって来た。
 思いついたときはこれしかないと思っていたけど、今になってそれは唯の自己満足にしかならないのかもしれない気がする。
 その反面期待もある、混じって頭がパンクしそうだ。

 この日の任務は何時もと変わらずDランクだけ、ナルトはこの後何が起こるか思いもしてないと思う。
 吃驚させた方が面白いとサクラは言っていた。なので誰一人として誕生日の事は口にしなかった。当の本人は忘れているらしい。
 そしてついに任務は終わり、帰ろうとしていたナルトを呼び止めた。

 「何?サクラちゃん。」

 「ふふーん、今日は何の日だと思う?」

 「えーと・・・、今日って何日?」

 「そんな反応だと思ったわ、アンタらしい。」

 「だってー、いっつも同じこと繰り返してるんだもん。別に日にちなんて意識してないってっばよ。」

 「結構覚えてると思ってたんだがなー。」

 「え、カカシ先生も知ってんの?!」

 「ちなみにこのサスケもね。」

 「さ、サスケも知ってんの?!何々?早く教えて!」

 「本当に忘れてたみたいね、ふふ、今日はねぇー・・・ナルトの誕生日!」

 「そう、お前のバースデー。」

 「オレの、誕生日・・・?」

 「ええそうよ、それでね、皆それぞれプレゼント持ってきたのよ。ハイこれ、私から。」

 「これ、オレにくれるの・・・?」

 「他に何があるって言うのよ!誕生日おめでとう、ナルト。」

 「んーオレからもハイ、これ。」

 「・・・マジで、いいの?」

 「もらえるモンはもらっておきなさい。おめでとう。」

 「・・・ありがとう。ありがとう!!スッゲェー嬉しいってばよ!!」

 「喜んでくれたみたいで、よかった。で、サスケ君からもあるのよ、ね?サスケ君。」

 俺の番が来た。ドキドキして頭が真っ白になりかけている。言わなければいけない事を一生懸命思い出し、口にする。

 「・・・ついて、来い。」

 「・・・え?」

 「・・・ついて来いって、言ってんだ。」

 「え、あーうん。」

 そして俺は回れ右してスタスタと先を歩き始めた。ナルトをついて来させる。サクラとカカシはナルトに別れの挨拶を言い帰っていった。
 俺は先を早く歩く。ナルトは俺に追いつこうとするがなかなか追いついて来ない。少しずつナルトの足音が小さくなるのが分かった。
 そして完全に途絶えた時、振り向くとナルトの姿は無かった。慌てて来た道を戻ろうと直ぐ角を曲がった時、ナルトが居た。

 「お前、ついて来いよ。」

 「ついて来いって、サスケが早いんじゃんか・・・。」

 「追いつけば良いだろ。」

 「追いつけなくてこうなったんだ。」

 「はぁ、ほら。早く来い。」

 「・・・サスケ、無理にオレの誕生日祝わなくてもいいってば。」

 「どういう意味だよ。」

 「サスケってば何か、怒ってるみたい。そこまでしなくても良いよ、気持ちは嬉しいからさ。」

 あいつはそう言って笑いかけた、でもどこか辛そうな笑顔だった。
 これでは意味が無い。俺が見たかったのは、こんな笑顔じゃない。
 ナルトはそう言うと逆方向へ歩き出そうとした。

 「待てよ、何処へ行くんだよ。」

 「家に帰るんだよ。」

 「誕生日祝ってやるんだから、途中で帰るな。」

 「だから無理に祝ってもらっても嬉しくないってばよ。」

 無理なんかじゃない、寧ろ心の底から祝ってやりたいんだ。
 でもこれまでの俺の振る舞いはそう受け取っても可笑しくないことばかりだ。自分に嫌悪する。
 喜んでもらいたいから、一緒懸命考えた。お前に見て欲しいから。それで笑ってくれたらこれ以上何も望まないから。
 だから、せめて最後までついて来て。目的地まで、一緒に来てくれ。
 俺は強引にナルトの手を握った。そして振り向かせた。

 「無理だと思ったら、今頃こんな場所に連れてったりしねーだろ。」

 「・・・サスケ?」

 「黙って連れられろ、ウスラトンカチ。」

 「・・・ウスラトンカチは、いらないってば・・・。」

 腕を掴まなかったのは、何時も俺はお前に優しくないから、せめてこんな時くらいは手を握って優しさを表現したかったから。
 強引だけど、これが俺の精一杯の優しさの一つだから。
 そしてさっきよりスピードを落としナルトと並んで歩く。空は薄暗く、寒い。
 手を握っていると、熱が伝わってくるのが分かる。気持ちが落ち着く。温かい気分だ。
 少しずつ目的地へと進んでいく。それと同時に心臓の高鳴りが増してきた。
 はたしてナルトは喜んでくれるだろうか。緊張が走る。
 最後の角を曲がると、そこには一面のコスモスが咲き誇っていた。
 これが俺からのプレゼント。

 「これは・・・。」

 「その、思い浮かばなかったから、こんなものだ。」

 「・・・。」

 「・・・嫌、だったか?」

 「・・・すげぇ。」

 「・・・は?」

 「すげぇ、すっげぇ!凄く綺麗だってばよ!」

 「・・・これで、よかったか?」

 「うん!もちろん、嬉しいってばよ!」

 緊張の糸がぷつりと切れた。途端に顔がほころぶ。よかった。
 ナルトはコスモス畑の中へ入って行き、駆け回る。心の底から楽しそうだ。
 俺は緊張と不安が一気に崩れ、その場に座り込む。安心した。
 すると其処へナルトが駆け寄ってきた、そして一言。

 「サスケ、ありがとな。」

 こいつの顔は笑っていた。そうだ、俺はこれが見たかったんだ。
 嬉しかった、やっと見れた。
 ナルトの目は真っ直ぐ俺へ向いている。俺以外映っていない瞳がとても愛しくなった。
 そのまま俺だけを見ていて欲しい。

 「・・・こんなもんで喜ぶなんて単純だな。」

 「何だよそれ、折角ありがとうって言ってるのに。」

 「まぁ、受け取ってやるよ。礼くらい。」

 「へへ、なんかさ、何もかもが嬉しいってばよ。こんなのを幸せって言うんだろうな。」

 「そうだな。」

 「また、来年の今日も誰かからおめでとうって言われたいってば。」

 「我侭なヤツ。」

 「悪かったな我侭で。」

 「でも、いいぜ俺は。」

 「何が?」

 「来年も此処へ連れてきてやってもな。」

 来年も再来年もその次の年もずっとずっと、此処へ連れてきてやるよ。
 お前がこんなふうに俺に笑いかけてくれるなら、何時だって此処へ連れてきてやる。

 「誕生日、おめでとう。ナルト。」

 「ありがとう、サスケ。へへ、なんかさ、お前からそんなふうに言われると恥いけど、凄く嬉しいってば。」

 「俺だって恥ずかしいんだぞ。」

 「お互い様な!」

 「ああ、そうだな。それともう一つ、お前に言っておきたいことがある。」

 「何?」

 「・・・好きだ。」

 好きだからこんなふうにお前の為に悩んだり、優しくしたり、もっと見て欲しいなんて思うんだ。
 これからもきっとそう、お前のためなら悩んだり、優しくしたり、何でもしてやる。
 お前の笑顔は俺の原動力なんだ。
 好きな人に喜んでもらえるならしてやれることは全てしてやる、それは普通だろ?
 俺にとって好きな人はお前だけだから。これからもずっとそう。

 辺りは既に暗く、清らかな黒い空には丸々とした月がひとつ浮かんでいた。
 その明かりに照らされた秋桜は今まで見た事の無い位、美しく、大きく咲き誇っていた。






 終






 *後書*
 ああもう即席な感じが嫌な位に分かりますね。
 これじゃフリーになんて恥ずかしすぎて出来ねぇよ。
 うちの駄文はサスケから告白するのが殆ど(というか全部)だな。
 ナルトからも書かなければ。
 ナルト君お誕生日おめでとう!!
 最後までお付き合い頂きありがとうございました。